ログ:朋然ノ巫女

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 鉄平は言う。 「お前達は知らないだろうが、俺達ジプスは独立した共同体として世界を転々としているが他の共同体との繋がりを独自に持っている。この地図を見てくれ」  鉄平が書架から引き出した地図を広げると中央に大きく拓けた盆地、四方に幹線が伸びて紙面の縁まで至る。幹線に横切られる形で盆地の外周には山脈が連なり、北西の山中の位置に赤い丸が記されている。 「中央の盆地がお前達の目指す第三ガナノだ。北西の赤丸がアオキ村の位置。迷い込んだと言っていたが、ここからそう離れていない。そして、これらが協力関係にある小規模集落だ」  鉄平が山の中を指さしていくそこには、よく見ると小さな黒丸がいくつも示されている。 「第三ガナノがカバーする通信領域は地図の範囲内だ。示されている集落の殆どが通信設備こそあるものの、当然ネットワークはすべて第三ガナノに依存している。アオキ村もその一つだ」 「だったら」 「ああ」  鉄平の首肯で目の前がくらんだ。だがゲイツは食い下がろうとする。 「まだ早合点だよ。ガナノは防衛兵力500人を擁する大都市。防衛戦では無敗を誇る要塞なのに……いや、最悪の場合を受け容れるよ。第三ガナノのポートツリー(※区画内の電子情報を集約する機械塔)は、都市中央にある。それに損害が及んでいるとなれば……」 「そのプツロングラは正常だ。障害の原因は根元にある」  ゲイツの舌打ちが聞こえた。同様にエリサの脳裏にも歯噛みしたい言葉がよぎる。 「ガナノ=ボトム第三区画は、すでに機械兵に陥落した」  あくまで最悪の想定だが、十中八九は的を射ている。頭を抱えたくなる事実に急を要する現実が頭の回転を早める。鉄平の方が先に口を継ぐ。 「第三ガナノが落ちた事はまだ村の人間には伝えていない。ひと月前の機械兵の死骸ですら村はパニック状態だった。今度はもう後がない。村全体の支度がようやく整う明後日の早暁、俺達はアオキ村を去る」 「雨でぬかるんだ山道は危険だったはず、それを押し通るつもりですか」 「愚問をするな」  鉄平はにわかに目を血走らせた。 「機械共に村ごとなぶり殺しにされるか、山の土砂に飲まれて死ぬか、どちらがより人道的か考えろ。村の命運は俺と紗也が背負っている。よそ者に口出しは無用だ」
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