第16章 始まりのおわり

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日常の中で話題に上らないようなこと、すり合わせたり敢えて話し合ったりしてなくても案外一緒に暮らしてるうちに思考回路とか感覚とかって共通してくるもんなのかもしれないなって。そんな風にあの人が考えそうなこと、俺は割と理解できるつもりでいるんだけど」 加賀谷さんの手にまた励ますように力がこもった。 「わざわざあの人にこっちからそんなこと、打ち明ける必要はないけど。もし万が一お前の今までのこと、何かの拍子に知ることになったとしてもさ。…お前がそうするしかなかった切実さや事情はきちんと飲み込める人だと思う。他所の女の子なら共感できるけど息子の嫁は嫌とか、うちの家族に迎え入れる子だからそういうのは駄目だとか、ダブルスタンダードを使い分ける人間じゃないよ。ああ見えて結構公明正大なんだよ。まぁ多少上の空だけどさ、日常生活については」 つられてちょっと笑った。加賀谷さんがわたしの気を軽くしたいと思ってくれてるのが伝わったから。彼はわたしの手を引いて再び歩き出した。大人しくそれに従って隣を歩く。 「大丈夫だ、心配するな。ちゃんとなるようになっていくよ。絶対そんなことないと思うけど、最悪誰かに反対されたって俺はお前を守るから。中途半端な気持ちでお前をあのクラブに勧誘した訳じゃない。結婚するしないまでは当時考えてなかったけど、ずっと最後まで夜里のそばにいてサポートしていくつもりだった、最初から。どんな形でも。だから急に思いついたんじゃない。何年も考え続けてきた結果だから、お前とこれからどうしていくのかって」 わたしは心底びっくりした。ずっと最後まで、って。…一生? あのクラブに移らないか、ってペントハウスで面談された時。そんな風に考えてたの、わたしのこと? 「…なんで?」 「何でって、なにが?」 彼はきょとんとしてわたしを見る。いやこっちの方が『きょとん』だよ。 「他の女の子をクラブに勧誘する時も?そんな風に考えるの?」 「まさか。お前だけだよ、勿論」 当たり前みたいに平然と言われても…。勿論、って何なんだ?どうしてわたしだけ他の女の子たちと違うの? 今更ながら不意にどぎまぎする。…なんか、この話題。 今真剣に突っ込み過ぎると、ちょっとやばい。…かも。 加賀谷さんはわたしの胸の内のざわつきなんか気づきもしないって様子で、むしろ何かを表に出してすっきりしたかのように軽い足取りになった。
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