第16章 始まりのおわり

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「疲れてないなら、少し歩こうか。お前この辺りはどう、来ることあるか?前はデートもしたことない可哀想な奴だったけど、多少はいろんなとこ連れてってもらったろ、あいつに?」 その話題オッケーなんだ。まぁ、加賀谷さんはわたしのこと好きな訳じゃないから。焼きもち妬くとかは最初からない。わたしは首を傾けて答えた。 「この周辺はあんまり来たことないかな。だから、どこに何があるとか全然わからないや」 「じゃあ、適当に歩くか。ここは騒がしいけど、もう少し行くと街も落ち着いてくる。歩いてるだけでも気分のいいとこだよ。広い公園もあるし、そっちを目指そう。…あ、足疲れたらちゃんと正直に言えよ。黙って我慢するな」 「疲れてないよ、座って美味しいご飯食べてただけだもん」 わたしたちは並んでゆっくりと歩き続けた。そこはかとなく距離が縮まった気もする。 これからどうなるかわからない。わたしは高城くんと別れた訳じゃない。加賀谷さんも別れて欲しいとは言わない。だからってこのままでいいとは思えないんだけど。 でも今はそのことは考えない。ただわたしとこの人のことだけでいたい。わたしたちは恋愛関係じゃない。でも、多分他の誰より近しい存在だ。それに確信が持てただけで心臓の辺りがほわっと温まる。 このままずっと何らかの形でこの人と一緒にいられたらこんな素敵なことはないな。そんな風に考えながらわたしは彼の手のひらをそっと握り返して、夜の深まりかけた街並みを加賀谷さんと二人でそぞろ歩き続けた。
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