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「やっぱり降ってくる系美少女は最高だな」
映画パンフレットの表紙を眺めながら、電灯に照らされる街中の雑踏を歩く男が一人。
映画のパンフレットは、空から降ってきた美少女に巻き込まれ、異能力を得た主人公が、世界の平和を守るために戦うアニメ映画のものだった。
夕方から上映していたその映画を観終えた男は、すでに暗くなっていた道を、駅に向かって歩いて行く。
「特にヒロインが空から降ってくるシーンは、神秘的であり神々しさも感じさせ、これから始まるであろう非日常への期待感に、バッチリ答えた表現だったな」
ウンウンと強く頷いた男は、雑踏から抜けるように路地へと入る。
この路地は駅への近道となっているが、知らない人が多いのか、大通りよりも駅に向かう歩行者がまばらだった。
後ろから来る人々に急かされるように人混みの中を歩いていた男は、余裕の出来た歩道にリラックスし、歩みを少し遅くする。
「はあ~。俺もこんな人生を送ってみたいもんだ」
そう言いながら、男は空を見上げた。
建物と建物に四角く切り取られた夜空は狭く、その間から覗く星は少ない。
そして、街灯や建物のネオンで明るい街中では、夜空に瞬く星はうっすらとしか見えなかった。
神秘的でもなく、神々しさもない都会の夜空。
この夜空では、映画で観たような美少女との出会いも叶わないであろう。
しかし、それでも映画の余韻が冷めやらぬ男は、夜空に向かってつい願ってしまう。
「空から美少女が降ってこないかなあ……」
そう男が呟いた時、空に人影が出来た。
「え?」
男が我が目を疑うよりも早く、その人影は男に接近し、男の上に落ちた。
どさりという重い何かが落ちた音と、ぐしゃりという何かが潰れた音が同時に路地に響き、何事かと歩行者の視線が音の発生源へと集まる。
発生源を見た歩行者たちは、目の前に広がる光景に固まり、静寂が場を支配した。
そして、その静寂を一瞬で打ち破るような悲鳴が上がる。
「キャアアアア!」
「と、飛び降りだあっ!」
「誰かが巻き込まれたぞ!」
ある者は腰を抜かし、またある者は目を反らし、またある者は関わりたくないと足早に通りすぎる。
音の発生源を中心に円が広がり、その開けた円の中には、男が持っていた空から美少女が降ってくる映画のパンフレットが落ちて、赤く染まっていた。
end
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