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「水とスポーツドリンク、どっちがいい?」
尋ねられ、少し考えて辰樹はスポーツドリンクと答えた。
京也が部屋の冷蔵庫からペットボトルを二本取り出し、蓋を開けて差し出されたそれを辰樹は一気に飲み干した。
昨日の朝方水を飲んだきりで、丸一日近く眠っていたのだから喉が乾いていて当然だった。
空のペットボトルを抜き取り、蓋を外したもう一本を京也が辰樹の手に握らせる。
一本は京也の物だと思っていたのだけれど、二本共喉の乾いている筈の辰樹の為に京也は持ってきてくれていた。
たったそれだけの事が、喉が詰まって熱くなる程に嬉しかった。
「そう云えば、云って無かったな。……ただいま」
「おかえり、なさい」
互いの顔をちゃんと見たのは、半月以上振りだった。
こんなに長く離れていたのは初めてで、なんだか擽ったい。
けれど。
その擽ったさを覆うように、忌まわしい記憶が辰樹の胸に重く陰を落とす。
知らず視線を落としてしまった辰樹の頬を暖かな手がそっと包む。
「…………君は何も、悪くない」
それでも表情の晴れない辰樹の唇に、触れるだけの口付けを落として京也が低く囁いた。
「君の体が回復したら、全部忘れる程に抱いてやる。………覚悟していなさい」
辰樹の顔にかあっと熱が集まる。
照れて瞳を大きく揺らす辰樹にくすりと笑って、京也は辰樹の体を抱き締めた。
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