【side京也】歪

2/5
3647人が本棚に入れています
本棚に追加
/625ページ
意識を飛ばしぐったりした辰樹の拘束を解けば、糸の切れたマリオネットのように辰樹の体はその場に崩れ落ちた。 汗ばんではいるけれど、癖の無い艶やかな細い髪、黒目がちの大きな瞳を覆い隠す長い睫毛、紅潮した陶器のような滑らかな肌。 適度に引き締まった細すぎない体躯から伸びる靭やかな長い手足。 瞬きしなければ人形と見紛うような、女物の服を着せればそこらのアイドルや女優などより余程人目を惹きそうな美しさ。 そんな辰樹の姿を暫く見下ろして、使った道具を袋に入れて京也は鏡の部屋を後にした。 辰樹を初めて見たのは京也が中学に入ったばかりの頃だった。 祖父に連れられ出掛けたパーティーで、母親と亡き瀬之尾グループの会長に手を引かれた幼い辰樹を見て、天使のような子供だと素直に思った。 紹介された時、邪気の無い笑顔を向けられて自然と頬が緩んだ。 その母親も儚げな雰囲気の優しそうな美しい女性で、美しい母子の姿はまるで聖母子の絵画を彷彿とさせた。 腹の中を探り合う大人達の犇めく会場の中で、そこだけが優しく清らかな光景に思えた。 まだ何も知らなかった頃の、懐かしくも苦い思い出。
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!