【side京也】歪

5/5
3652人が本棚に入れています
本棚に追加
/625ページ
五条グループの会長である祖父は公私共に厳しく、笑った顔など見た事も無かった。 企業を大きくする為だけならまだしも、時には自分の欲の為だけに汚い手を使ってでも相手を貶めたり、強引な買収をしたりで幾つもの家族を一家心中にまで追い遣ったと云う話もよく聞いたが、「仕事に情は一切必要無い」と云うのが祖父の持論で跡取りである京也にもそれを求めた。 京也は祖父のやり方にずっと反感を持っていた。 人を力で押さえ付けるワンマンな祖父の経営方針では、いずれグループ全体が破綻してしまう。 何より、潔癖な京也は犯罪紛いの行為には酷く嫌悪感を抱いていた。 時には裏で取り引きする事も、他人を利用する事も必要だとは、理解はしている。 けれどそれで恨みを買って行けば、いずれ足元を掬われる。 祖父の反感を買わないよう気付かれないよう裏で手を回し、少しずつ経営方針を変え、周りの信頼を得ながら恨みを買わないよう上手く他人を利用して来た。 その辺りは幼い頃から我を出さず、本心を隠す事の得意な京也には簡単な事だった。 だが辰樹の件に関しては別だった。 辰樹の実家の事業が傾いたのは確かに父親の商才の無さもあったけれど、裏で動いていた五条の力が大きかった。 辰樹の祖父が健在な頃は互いに牽制の意味も込めて業務提携を結んでいたが、元から五条の会長は業績の大きな瀬之尾傘下の企業をずっと狙っていて、瀬之尾の会長が倒れたと聞くや直ぐに動いたのだ。 京也にとってそれは好都合だった。 辰樹の父親は元から子供に関心が薄い。 可愛がっていた会長が亡くなれば辰樹を守る存在はもう誰も居ない。 瀬之尾グループの力を削ぎ、生まれ育った実家を奪い、辰樹の持つものを全て奪い取って自分だけに服従させる。 それが京也の歪な“復讐”だった。
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!