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辰樹がこの部屋に閉じ込められて一週間が過ぎた。
尤もカレンダーも窓も時計すら無いこの部屋では日にちどころか時間の感覚すら曖昧だったけれど。
日中は村岡の運んで来る食事を摂り湯船に浸かり、夜は様々な道具を駆使され意識を飛ばすまで京也に攻め立てられる。
ただそんな日々の繰り返し。
暇を潰す為のテレビもパソコンも本も何も無い。
辰樹の頭は少しずつ考える事を止めていった。
鏡張りのこの部屋にももう慣れた。
食事を運んで来ては日に一度ベッドのシーツを取り替える村岡とは別段会話も無く、この部屋を訪れる者は村岡と京也だけ。
ぼんやりと、ベッドに寝転び天井に映る自分の姿を眺める。
羞恥が完全に消えた訳ではない。
他の誰かにこんな姿を見られたらと考えたら今でも気が変になってしまいそうだった。
自らの痴態を収められた写真はどうしただろうとか、折角受かった大学はどうなっただろうとか、父はどうしているだろうとか最初の数日は色々な事が頭を巡ったけれど、考えても今の自分にはどうする事も出来なくて、やがて思考自体に蓋をした。
それは自身を守る為の防衛手段だったのかも知れない。
夕食の頃合いになり、扉がノックされた。
「今夜は五条さんは…」
トレイを持って入ってきた村岡にぼんやりと体を横たえたまま辰樹は訊ねた。
京也は仕事で帰宅が夕食に間に合わない時も多く、その時にはこうやって村岡が夕食を運んで来る。
京也の持ち込む食事はわざといつも手掴みで食べるには困難な物ばかりで、それに手を付ける事は辰樹のなけなしのプライドがどうしても許さなかった。
村岡の用意する食事は毎回手掴みでも食べられるように工夫されていて、お陰で辰樹は空腹を我慢せずに済んでいた。
「京也様は視察に出掛けており、お帰りは明日の夜遅くになると伺っております」
そう答えていつものように「失礼します」と一礼して部屋を出て行く村岡を見送り、ゆっくりと辰樹はベッドから降りた。
紫蘇の葉で巻かれたお握りを頬張り、生姜焼きを添えられたサラダ菜で包んで口に入れ、カップスープとホットミルクを飲み干しほっと息を付く。
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