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「そりゃそうだろ・・・・・・。あんな高いところから落ちてきているんだから」
「おじさん、味気ない! 私はそんな、物理の授業みたいな話をしてるんじゃないの」
女子高生にダメ出しをされてしまった。今日は本当に奇妙な日だ。いつものこの時間は、この縁側でひとりの時間を過ごすのが日課だったのに。
しかし、もやもやしている間にも、彼女の好奇心はあちこちに移っていくらしい。彼女は目の前の古びた平屋を見上げ、懐かしいものを見るように目を細めた。
「大きい家ですね。すごく広い。お一人で住まれてるんですか?」
「おじさんが、一人じゃ悪いか」
「そ、そんなこと言ってません。でも、そっか」
頷くと、彼女は彼を振り返った。
「――それでおじさんは、雨が好きなんですね」
ふっと、その一瞬、唐突に雨音がかき消えた気がした。彼女の言葉が脳内に響く。確かに雨は好きだ。でも、彼女の声色は、もっと深いところをすでに知っているような響きをしていた。
あっという間に両親は他界し、兄はそれよりもっと前に、家庭を持って遠くの街に移っていった。田舎の古い平屋だが、どうしても売り渡す気になれなくて、ずっと何年も続けてきた一人暮らし。彼も、本当はもう知っている。夜の雨が好きな理由も、晴れの夜はついついイヤホンを耳に挿してしまう理由も。
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