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だが、いつからか、僕には星が見えなくなった。晴れた日でも、星は見えない。僕が見ようとしていないだけなのか、僕の目が星を見つけることができなくなったのか。それとも、気付かぬうちに星が消えてしまったのか。まあ、そんなことはどうでもいいことだ。僕はただ歩き続けるだけだ。いつかは彼女に会えると信じて。
一 裸の男
僕は夜の散歩で一人の男と出会った。
住んでいるアパートを出て、一軒家が建ち並ぶ住宅街を抜けて、大通りへ出る。コンビニの明かりを横目に歩き、坂を下ると、自動車販売店がある。その前に、裸の男が立っていた。
「こんばんは」
僕がそう声をかけると、裸の男は一度無表情にこちらを見つめた後、笑顔で「こんばんは」と返した。
「あの、どうして裸なんですか?」
「この方が涼しいでしょう? いいですよ裸は。これが人間本来の姿なんだって実感しますね。こんなに心穏やかなのは初めてだ」
裸の男は大きく伸びをしながら言った。
「というか、驚かないんですね、あなた」
「え?」
「いや、だって裸の男がいたらふつうは驚きません? 変態だとかなんとか言って」
言われてみればそうだ。なぜ疑問に思わなかったのだろう。
「なんででしょう」
「いや、私に訊かれてもね」
「わからないんです。ここ最近、いや、ある時から、僕は感情をどこかに置き忘れてきてしまったようで」
「感情を置き忘れた?」
「ええ」
裸の男はこちらをじっと見つめている。穏やかで優しい目をしていた。
「そうか、それはよくないな」
「よくない?」
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