第1章

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 今日は街の商店街で七夕まつりが行われていた。  いつもは錆びれた商店街だけど、年に一度賑やかになる。いろんな屋台が並び、多くの人がごった返す。家族連れやカップル、それに僕と同じ中学生まで、いろんな人がこの七夕まつりに来ていた。  もちろん商店街には笹も飾られていた。短冊に願い事を書いている家族を見ると、なんだか懐かしい思い出がよみがえりそうになる。しかしそれが、どんなものだったのかは、はっきりとしない。ただ僕は父親と何かを話している思い出だ。    僕の父親は、もういない。亡くなってしまった。    それは確か僕が小学校に入学したころだったと思う。お葬式のことは、よく覚えている。多くの大人が黒い服を着ていた。その印象は強く僕の脳裏に残っている。しかし、なぜ父が死んでしまったのかは覚えていない。そもそも当時の僕には、誰も教えてくれなかったかもしれない。    僕の父は警察官だった。そのことは覚えている。  父は何かの事件に巻き込まれ殉職しかのか?それとも事故なのか?いや病気だったのかもしれない。もしかしたら自殺なのか…。  父が亡くなった原因は、僕には分からない。いままで母に訊こうかと何度も思ったこともあった。でも、なんだか訊いたらまずいような気がして、父の死のことは僕の心の奥に蓋を閉めて閉じ込めている。  ただお葬式のあと、母は僕に「お父さんは星になて、僕たちを守ってくれてるのよ」と言ってくれたのは記憶に残っている。  僕は昔、父と七夕まつりに来ている。七夕まつりに来ると、いつも父のことを思い出す。だけど、どんなことをしたのか?どんな話をしたのか?詳しいことはさっぱり思い出せない。  七夕まつりに来ると、いつもモヤモヤとした不思議な感情に見舞わられる。    そして今年の七夕まつりは、僕は友達と二人で来ていた。父のことを微かに思い出しながらも、いろんな屋台を巡っていた。金魚すくいやらくじ引き、かき氷にたこ焼き、一通り屋台を巡って楽しんでいた。  屋台を巡っているとき、同じ中学のやつとも何人か会った。女は浴衣を着て来ていたし、付き合っているやつらは二人でデートしていた。    今日、僕が友達と二人なのは、僕には友達と呼べる相手は、この貴志しかいなかった。そして貴志も、僕しか友達がいないとたぶん思う。そして僕たち二人は、学校でも目立たない存在なのだ。
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