0人が本棚に入れています
本棚に追加
運動ができるわけでもなく、勉強ができるわけでもなく、面白いことを喋れるわけでもなく、決して顔がいいわけでもない。
僕たちは目立たない二人でいつも一緒に遊んでいる。だけど僕は満足している。友達は貴志しかいないけど、こいつとは気が合っていた。二人だけで遊んでいても、僕はそれなりに楽しかった。
だから僕は、もっと友達が欲しいとも思わなかったし、今は彼女が欲しいとも思わない。
ちょっと強がりを言ってしまった。
本当はデートしているやつらを見ると、羨ましいのは羨ましい。まあ、でも、貴志と一緒に屋台を回っているのも、それなりに楽しかった。
「よう、康一と貴志じゃないか?」
僕たちを呼ぶやつがいた。僕と貴志は、その声のするほうを向いた。
そこにいたのはクラスの不良三人組だった。
僕はやつらの顔を見て、瞬時に嫌な気分になった。学校以外で会いたくないやつらだ。それは貴志も同じだろう。いや、僕よりきっと貴志のほうが、そう思っているだろう。
僕と貴志は、二人とも目立たない存在だ。しかも貴志は、体も小さく少し挙動不審のような感じに動く。だから不良連中によくからかわれる。貴志がからかわれることで、僕のほうにはあまり被害がない。僕は貴志がからかわれてるのをいつも、ただ遠くから黙って眺めているだけだ。
「貴志、かき氷食べてるの?美味しそうじゃん」
不良の一人が、貴志に話し掛けた。貴志は黙って頷くだけだった。
「俺らもかき氷食べてぇーな。貴志、奢ってよ」
不良の一人がそう言うと、周りのやつはニタニタと笑っていた。
「かき氷ぐらいならいいけど」と貴志は小さな声で答えた。
「やったー。ラッキー」
不良の三人は騒ぎながら、貴志の肩に腕をまわして貴志を連れて行った。
僕は何も言うことができなかった。ただ、そのときの状況を黙って見ているしかできなかった。
一人取り残された僕は、何もやることもなく、どうしたらいいのかも分からなかった。ただボーっと、七夕の飾りを見た。
僕は突然一つの短冊が目に留まった。その短冊にはちょうど僕の目の高さにあり、下手な字だったけどしっかりとした字で書かれていた。
『パパのようになりたい』
僕はその短冊の字を読んだ瞬間、父との七夕の思い出を思い出した。
「僕もパパみたいに悪者をやっつける人になりたい」
最初のコメントを投稿しよう!