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――まるで、どこか別の星の空みたい。
淡い紫色の雲。ついさっき木々の隙間から見えていたそれが、そこにはたくさんあった。ひどく小さいものから大きいものまで、そのどれもが色とりどりの光の粒を包み込んで、強く輝きを放っている。暗い夜空にも負けないように、そしてそれを引き裂くように、雲はまた幾つも寄り添い合い、果てしなく大きな川を形作っていた。
それは、決して始めて見るものじゃないはずで。
――天の川。
今日は七夕。川のどこかに橋が架かって、あの二人はきっと再会を果たしている。
気付くとカメラを取り出していた。電源を入れて、覚え立てのぎこちない操作で準備を整えてから、映し出された画面越しにもう一度空を見上げる。
夜空は何も変わらない。当たり前だ。目を離していたのなんて、ほんの数瞬のこと。
目的を果たすんだ。こんなにも美しい光景を、余さず彼の下へ持ち帰るために。
「……」
何を……しているんだろう、私は。
こんな場所で、こんな状態で、……一体誰の所へ、それを届けられるというのか。
堪えきれなかった。景色が潤んで歪んで、流れ出した涙が頬を伝う。いくらでも零れて、止まろうとはしない。
誰も居ない。どこか遠い場所で、一人きりで。
彦星と織姫。あの二人だって、もしかしたら再会を果たせていないかも知れない。
彦星が、病に倒れて動けないかもしれない。織姫が、橋を見つけられずに迷っているかもしれない。
それでも時間は容赦なく流れて、やがて七夕は終わりを告げる。
約束を果たすことなく、それでも次の一年を、二人は生きていけるだろうか。
……もう一度だけでいい。
やり直したいんだ。こんな七夕なんて。
こうして一人きりで夜空を見上げていたって、隣にあの人がいないのなら。
もう、一緒に居られないのなら。
……お願いします。
今まで願い事と言われても、目立って浮かぶものはなかった。
欲しいものはなかった。きっと、本当に求めていたものがきちんと傍にあったから。
わざわざ会いたいと願わなくても、そこに居てくれたから。
……あの人に。
「――遥也に……会いたいです……!」
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