あの日の空に似て

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 今年もその日はやってきた。笹はないけれど、せめてもと短冊は用意してある。  いつもは絶賛稼働中の電灯やテレビなどは、今日は珍しく休暇中。開け放たれたカーテンと、透明な窓ガラスを越えて遙か遠く。 「……晴れてよかった」  この光景を見る度、思わずそう呟いてしまうのは毎年のこと。  真っ黒な世界と、その中央を大きくうねる天の川。一つ一つ光り輝くあの星々の中に、やっぱりあの二人はいるんだろうか。  ……橋は、ちゃんと架かったかな。  お伽噺の世界の話。大学生にもなって、真面目にこんなことを願ってしまうのは少し恥ずかしい気もしなくはないけれど。 「……」  ――違う。それはきっと、今の私だからなんだ。  昔……例えばまだ中学生だった頃の私は、至ってありふれた風な願い事をしていた。それは別に普通のことで、もちろん間違っているわけはない。  今からちょうど三年前の同じ日。あれから私は、毎年この夜空に同じ願い事を捧げるようになっていた。  ――どうか、少しでも長い間、橋が消えませんように。  七夕の日だけというなら、少しくらい幸せな時間が延長されてもいいんじゃないか。そう思うようになったからだ。  ……そもそも、一日だけなんて。  それも最近になって感じるようになった。理由ははっきりとは分からない。  強いて言うと、今ならあの二人の気持ちの一端に触れられるような、そういう予感があるのかもしれない。  きっとあの日、私は大切な人の存在を知ったんだろう。  昔からずっと一緒だった。最近は少し会える機会が減ってしまって、それは決して一年に一度だけというわけではないけれど、やっぱり寂しさは絶えなくて。  考えていると、また声を聞きたくなってしまう。今、多分彼はバイト中だろう。そう分かっていて、けれど携帯の電話帳から彼の名前を探した私は、そっとそれをノックしていた。  数秒の間呼び出し音が続く。八回くらいで、それがブツッと途切れて。 『お掛けになった電話番号は、現在電波の届かない所にあるか――……』  無機質な女性の声。当然期待していたものじゃない。  留守電は残さず、通話を切った。最近では珍しいことでもないし、立場が逆になる時だって多い。折り返しは……多分ないか。きっと今日もSNSで短いやり取りをするだけで、私たちは普通に眠りにつくんだろう。 「……?」
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