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そんなある日、ひろしは夜逃げしたターゲットを見つけた。河原で息をしていない状態で。その傍らには、痩せ細った女と、まだ幼い女の子の水死体が転がっていた。一家で入水自殺したのだ。
鬼の取立てと言われたひろしと、今の親方である社長は、呆然と立ち尽くした。
まだ幼い小さな手の中には、何か白い物が握られており、それがハッカ飴だということに、匂いで気付いた。
入水したにも関わらず、その飴はしっかりと幼女の手に握られており、どこからか嗅ぎつけたのか、小さな蟻が列を作って、そのハッカ飴にたかっていた。
その日を境に、親方は街金融を畳んで、今の解体業に鞍替えし、堅気になった。
あの家族の死体を忘れる事はできい。健気な小さな手には、ハッカ飴が握られており、おそらく橋から飛び降りるさいに、ぐずる子供に与えたものなのだろう。
流れ着いたドロップの缶には、ハッカ飴しか残っていなかった。
ハッカの匂いと、死臭が入り混じる。それ以来、ひろしは匂いに敏感になった。
その時、ふとひろしの携帯が鳴っているのに気付いた。
ひろしは、車を路肩に止めると、携帯を耳に当てた。
姐さんからだ。
「もしもし、ひろしさん?うちの人が...うちの人が...。」
姐さんは震える声で繰り返した。
「親方がどうしたんですか?」
すると、電話口からは、すすり泣きが聞こえてきた。
「心臓発作を起こして...。」
「なんですって?」
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