第1章 はじまり

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僕にとって数年ぶりのデートは、梅雨晴れの日だった。 普段はスーツ姿でしか佐藤さんに会っていないから、僕は何を着ていけばよいかわからなかった。 昨晩は久しぶりにクローゼットにしまってある服を全て出して、僕なりのベストな私服ををチョイスしたつもりだが、ベージュのチノパンに青いシャツという見事に普通のコーディネートに落ち着いた。 改札の向こうに見えた佐藤さんは白いさわやかなワンピースを着ていた。 小走りでやってきた彼女は、遅刻しないように焦っていたのか、少し首元にじわっと汗がでていた。 「お待たせしました。遅れてしまってすみません。」 僕は人に待たせれるのには慣れていた。こういうときはいつも待つ側だった。 「いや、僕も今きたとこ」 気の利いた言葉で僕は返す。 「渡部さんの至福そうでしたか、じゃあ行きましょうか。」 新宿の映画館は休日だからか、カップルで賑わっていた。数年ぶりのこういうシチュエーションに僕は落ち着かなかった。 チケットとこぼれ落ちそうなポップコーンを抱えて僕らはエスカレーターを上る。 「渡部さん、スーツ着てないと別人みたいですね。私服も良い感じです。」 「そうかな?スーツ以外は普段は全然着ないからね。」 今日の服を2時間かけて選んだことは僕だけの秘密だ。
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