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僕にとって数年ぶりのデートは、梅雨晴れの日だった。
普段はスーツ姿でしか佐藤さんに会っていないから、僕は何を着ていけばよいかわからなかった。
昨晩は久しぶりにクローゼットにしまってある服を全て出して、僕なりのベストな私服ををチョイスしたつもりだが、ベージュのチノパンに青いシャツという見事に普通のコーディネートに落ち着いた。
改札の向こうに見えた佐藤さんは白いさわやかなワンピースを着ていた。
小走りでやってきた彼女は、遅刻しないように焦っていたのか、少し首元にじわっと汗がでていた。
「お待たせしました。遅れてしまってすみません。」
僕は人に待たせれるのには慣れていた。こういうときはいつも待つ側だった。
「いや、僕も今きたとこ」
気の利いた言葉で僕は返す。
「渡部さんの至福そうでしたか、じゃあ行きましょうか。」
新宿の映画館は休日だからか、カップルで賑わっていた。数年ぶりのこういうシチュエーションに僕は落ち着かなかった。
チケットとこぼれ落ちそうなポップコーンを抱えて僕らはエスカレーターを上る。
「渡部さん、スーツ着てないと別人みたいですね。私服も良い感じです。」
「そうかな?スーツ以外は普段は全然着ないからね。」
今日の服を2時間かけて選んだことは僕だけの秘密だ。
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