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何をするあてもなく大学に入った実花にとって、四年間は無味乾燥で退屈な時間だった。
キラキラと夢を語る同期に囲まれて、実花はいつも一人だった。
親の見栄のために、やりたかったことが出来る専門学校への進学は許されず、ただ受かりそうだったからという陳腐な理由で入った私立大学。「貴女がもっと賢ければ授業料の安い国立に行けたのに」と愚痴る母は、私の行きたかった専門学校の授業料を調べたのだろうか。
はあ、と実花は何度目とも知らないため息をついた。
やりたくないことをさせられ、意欲も湧かず単位はギリギリ。無難に進級しただけの四年生にとって、目の前に横たわる「就活」の二文字は、理不尽に使役される罰かなにかに見えた。
「なーんも産まなかった四年間を売りに、なーんも産まない残りの人生を競売にかけるのよね」
実花にとって就職は即ち終身刑を意味した。だからといって働かねば死ぬことくらい底辺大学生にもわかる。神は我を生かしながら殺したまうか。
「ふっ」
実花は自嘲を含む笑みを漏らしたのち、学内掲示板のポスターに書かれていたアドレスを入力する。
『老人ホームボランティア参加要項』
pdfファイルをダウンロードして、さらりと流し読みする。
『参加しますか?
はい〇 いいえ〇』
Googleフォームの選択肢にチェックを入れ、実花はマウスをクリックした。
『ご応募ありがとうございます。後日、詳細を登録されたメールアドレスに送付いたします。』
実花はまた、ふぅとため息をついた。
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