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実花は誇れる肩書きがない。中高の部活でなにか成績を挙げた訳でも、特別進学校に進み勉学を頑張った訳でもない。まして、大学での三年間など……。
エントリーシートを書いて、提出して、面接して。早い子はもう幹部面接まで行っているらしい。悔しい訳じゃない。実花を縛ったのは、このままではのたれ死ぬという危機感である。
最近母親は、メールでも電話でも就活の進展しか話題にしない。心が疲れて沈みがちな実花にあからさまに穀潰しだと言ってみたり、体調が芳しくなく授業を休んだことを仮病だと断定され罵られたり。母親は離れていても子の体調に声で気づく、なんてのはファンタジーだと感じた。
口を開けば「いいところに就職しなさい」。いいところとは何かと口答えしようものなら、大企業に決まっているではないかと一喝される。母さんはニュースを見たいのだろうか。大きければ正義とは幼子の思考だろうが。世間では電通社員の自殺の記憶は薄れていない。
昨日も、実花はそんな母親と大喧嘩していた。休日にショッピングモールにいって服を買ったことがなぜ気に食わないのか、実花にはさっぱりわからなかった。
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