溺れる家

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短い廊下を突き抜けると、リビングへ向かう。 仕切りを作らず広く間取りを取ったダイニングキッチンが目に入る。 「設計士さんに、一番に注文をつけたのよ」 母が自慢するのを、何十回と聞いた。 対面式のカウンター越しに気配を感じ、そっと近づいてみる。 母が、いた。 うずくまって、シクシクと泣いている。 右手で掴んだ左手首からは、赤い筋が流れていた。 「ただいま」 とりあえず帰宅の挨拶をして、尋ねる。 「どうしたの?」 「包丁で、切ったの」
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