溺れる家

6/7
前へ
/100ページ
次へ
「……ごめんね」 うずくまったままの母は、もう一回り小さくなった。 「完全看護だし、毎日行く必要ないよ」 1ヶ月前に不況の煽りを受けて造船所のリストラ対象になった父は、その時期を待っていたかのように胃潰瘍をこじらせ吐血し、現在も入院中だ。 生体検査の結果、進行性の癌だと分かったのが2週間前。 「宿題あるから、部屋へ行くね」 「何か、食べるもの作ろうか?」 「いいよ、休んでて」 手当ての間中、母から漂うアルコールの臭いが不快だったが、黙っていた。 また、元に戻っちゃったな……。 後20年はローンの残るこの家を、母は手放すことが出来るのだろうか。 「やっぱり、後で、おうどん作って持って行くから!」 先ほどと打って変わってテンションが高めの母の声を背後に、足早に階段を踏みしめる。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加