溺れる家

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自室に入ると、ようやく呼吸ができる気がした。 パクパクと、オーバーに口を開いてみる。 釣り上げられた、ボラのように。 机に向かってみたものの、当然何もやる気は出なかった。 ふと、「ワタカベ・サトリ」君の涼しい横顔を思い出す。 きっと彼は、何の足かせもなく、迷うことなく今でも勉強に勤しんでいるのだろう。 選ばれた、恵まれた人生を送る側の人だから。 「……ドMのド変態だけどね」 あれだけ授業中に眠ったにも関わらず、またもや睡魔が襲ってきた。 教室でしていたのと同じように、額を天板に押し当てる。 「人生なんて、何が起こるか分からないのにねぇ……」 独り言をつぶやくと、それがスイッチだったかのように、自然に眠りに落ちた。 「ねぇ~、やっぱり、焼きそばでいい~!?」 階下で母が叫んでいるのも、聞こえなかった。
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