彼の事情

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午後の授業が眠いのはいつもと変わらなかったが、教室の中に違和感を覚えた。 ドMでド変態のワタカベ君が、いない。 確か、午前中の授業は、いつも通り涼しい顔をして席に着いていた。 優秀すぎて、授業が退屈になって、帰っちゃった? 真面目な彼に限って、学校をサボるなんて外道なことは、あり得ない。 実は、具合が悪いのを悟られないようにいつも通り涼しい顔を保っていたのだけれど、 とうとう耐えられなくなっちゃって、早引けした……。 うん、こっちの方が、ドMでド変態のワタカベ君らしくて、しっくりくる。 納得顔で一人ウンウン頷いていると、テキストを読み上げるだけの教師が私の名を呼んだ。 「おっ、ハルカワ、今日はちゃんと起きて聞いてるんだな」 笑っていいものかどうか、クラスの全員が戸惑っている空気が読める。 ━━余計な一言を投げかけないでください。 だけど確かに、ワタカベ君のことを妄想していたお蔭で、眠気はどこかへ行ってしまっていた。
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