飛び込み、泳ぐ

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ワタカベ君は、小さな子供が好んで読むような雑誌を胸に抱えていた。 表紙には、マユコが幼いころから子供に人気のキャラクターが描かれている。 年の離れた弟か妹でもいるのかな? こちらが尋ねる前に、「あっ」と、先ほどの気のない「ああ……」とは明らかにテンションの違う声を彼はあげた。 「ハルカワさん、『スプラッシュ』を読むんだ」 彼は彼で、こちらが抱えている少年漫画雑誌が気になったらしい。 「あ……女子は全員、少女漫画を読むものだと思ってたから。気を悪くしたら、ごめんね」 同級生に対して、意外なくらいに礼儀正しく接するワタカベ君に少々面喰いつつ、応える。 「ううん。あの、『*****』が好きだから……」 それは、雑誌の看板漫画ではなかったけれど。 「え、俺も好きだよ」 ドMのワタカベ君は、らしくない爽やかな笑顔を見せる。 「コミック全巻持ってるし」 そして、少し自慢げに笑った。
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