溺れる家

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玄関に入ってすぐに、違和感に気づいた。 異様に静かだ。 いつもなら「おかえりなさい!」と、母がスキップでもしそうな勢いで出迎えてくれるのだが。 しばらく、玄関で息を潜めて待ってみる。 以前、やはり何も返事がないので黙って2階の自室へ通じる階段へ向かおうとすると、 「ちょっと、探してよ~!」 かくれんぼをしていたかのように、物陰から突然、母がおどけて現れたこともあったのだ。 正確に計ったわけではないが、1分程度佇んでいたと思う。 やはり、母は現れない。 玄関に鍵はかかっていなかった。 母は、家の中のどこかにいる。 胸騒ぎを感じながらも、冷静さを装い一歩ずつ足を踏み入れる。 まるで、見知らぬ家に初めて訪問するかのように。
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