それは、あるはずのない……

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ホームに降りたとたん、何かが違うなと感じた。 いつもの、なれ親しんだ五条駅じゃない。 なんていうか、暗い……。 地下鉄なんだから、ホームは、どうしたって人工照明だ。それにしても、いつもより暗い。 第一、人がいない。 ホームに降り立ったのは、僕一人だ。 そんなわけあるはずない。 五条通りはビルやマンションも並びたつ、にぎやかな場所である。 なんだ、コリャ? 降りる駅、まちがえたか? 一駅なのに? しょうがないので、次の列車が来るのを待った。 だが、来ない。 帰宅ラッシュ時なんだ。 五分置きには来るはずの列車が、待っても待っても、いっこうに来ない。 僕は心細くなった。 外に出よう。駅前なら、きっと近くにバス停がある。なければ、このさい、タクシーでもいいや。 地下鉄のホームは、どこからともなく、冷たい風が吹いていた。これ以上、その場にいることが、いたたまれなくなって、僕は階段をさがした。 階段はあった。というより、エスカレーターが。でも、止まってる。ますます、気持ち悪い。 僕は恐る恐る、止まったエスカレーターをのぼっていった。すぐに改札に出た。が、改札も無人だ。しかも、今どき、自動改札じゃない。 おかしい。どう考えても、おかしい。 烏丸線で、自動改札じゃない駅なんてあるのか?     
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