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すっかり暗くなった住宅街を濡れた靴で歩いていく。
靴下まで浸透した水が不愉快だ。
大雨が嘘だったかのように空は雲一つなくて、たくさんの星が瞬いていた。
時折、会社帰りのサラリーマンが足早に俺を追い越していく。
時刻は19時を回っていた。
スマートフォンには母親からのメッセージがいくつか入っていて、どれも俺の帰りが遅いことを不安がっている内容だった。
『新しくできた友だちと教室で遅くまで勉強したり、話したりしているうちに時間を忘れてしまったみたいで、今帰っているよ』
返事をするとすぐに通知音が鳴る。
『それならいいんだけど。今日のご飯はグラタンよ』
グラタン。
宙翔の好物だ、と顔を上げると少し先に弟が歩いているのに気付いた。
背後の俺には気づいていないのだろう、弟は空を見上げながらゆっくりと歩いている。
声をかけるかどうか逡巡しているうちに家に着いてしまい、宙翔が家に入ったのを確認したあとに暫く電柱に寄りかかって俺も空を仰いだ。
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