17歳のカルテ

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 ももが帰って来たのは午後9時に近かった。面会時間ギリギリまでずっとアヤのそばにいたのだ。疲れた顔で帰って来て、ご飯を食べながら、何も言わずにポロポロ泣いた。黙って泣いた。 ………… …… うぐぅぅぅ、こりゃダメだ。勝てない。  自分の無力を思って泣く子どもに、「アヤは大変だけど、お前だってそれどころじゃないはずだ」とは言えなかった。わかっているからももは黙って泣くのだ。私がたったの1時間で根をあげたあの地獄のような病院で、娘は半日も友達に寄り添い続けた。そんな娘に、できることは何もないと、大人が言ってはいけない気がした。 「……わかった。退院したらうちに連れておいで」  3日後、ももは言われた通りにした。こういうときだけは聞き分けがいい。  アヤは一言で言って居場所のない子だった。  とっくに離婚している両親は、互いの新しいパートナーとの間に、アヤを挟むことを嫌がった。実家にいられない未成年のアヤが、家を出てキャバクラで生計を立てるようになったのは安易だろうか。  最初に勤めたキャバクラで、安アパートの一室が、寮としてあてがわれた。ところが、そこは半ば軟禁状態で、コンビニでも行こうと部屋を出ただけで、「どこ行くの?」と見張りから速攻で電話がかかってくる始末だった。店とアパートを往復するだけの毎日だ。  それに嫌気がさして、ケイと二人でそのアパートを飛び出したアヤは、稼いだ金で住まいを別に移し、また別のキャバクラ店で働き始めた。若くて可愛いアヤは、働く店には困らなかった。  そんな時に、たまたま遊びに行ったホストクラブにいたのがアヤより14も年上のヤスだった。  ここまでくると、アヤは相当頭の弱い子に見えるかもしれない。でも実際は、娘より成績はよほど良かったし、飲み込みが悪いわけでもない。このひどい生活の中で、フリースクールの課題をコツコツこなしていたぐらいだ。ただ、生真面目で、極端に押しに弱い。そして、”良い子”であろうとする。それは半ば自分でも説明のつかない強迫観念で縛られていて、誰に対しても強く断れず、”良い子”ではない自分ではいられない。それを象徴するエピソードはいくつもあるが、中でも印象的だったのは『おじいちゃんの仏壇』だ。
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