17歳のカルテ

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一瞬、何を言われているのかわからなくて聞き返した。 「は? 空き家になってるじいちゃんの仏壇がなんだって?」 「色々バタバタしてて、私も全然行けなかったから、お線香あげにいかないと……」 「なんで?」 「え、だって、お父さんもお母さんも誰も行かないし……」 「頼まれたの?」 「そうじゃないけど……」  アヤが言うには、生前かわいがってくれた父方の祖父が、毎日お線香をあげ、(カセットテープで)お経をあげていた仏壇が気になると言うのである。おじいちゃんが生前あれほど大切にしていたのに、と。  実家の仏壇の心配を一度もしたことがない私は、感心するよりもまず呆れた。  そもそもアヤは、誰が見ても絵に描いたような立派(?)なボロボロだ。居場所がなく金もない。掴んだカレシはドクズで、そいつに散々稼ぎを吸い上げられた挙句、行方を眩まされた。  それどころじゃないだろうと、そこら中からツッコミが入りそうだが、なんというか、アヤはそういう子なのだ。  だからこそ、自己中心的で想像力のない、自分こそがいつでも最大の被害者だと喚く恥知らずは、彼女を見つけたら逃さない。アヤの不幸は、そんな加害意識のまるでない、無自覚・無敵のバケモノに、最後の一滴を今まさに吸い尽くされようとしていることに、まるで無自覚だと言うことだ。  さて、少し話が脱線する。  あなたは不思議に思ったことはないだろうか。  誰もが口を揃えるダメ男から、なぜか離れられない女たちの存在を。  殴る男から離れられない女、アル中夫に尽くす妻、その他、ギャンブル・借金・女癖とダメ男は枚挙にいとまがない。男女が逆の場合ももちろんあるが、なぜわかっていて離れないのだ?   私は不思議だった。DV男にしがみつく女は、やっと別れたと思うと、ほとぼりが冷めるとすぐに元サヤに収まってしまう。あるいはまた別のDV男と付き合い始めるのだ。もう全く意味不明だ。  あるとき、そんな私の疑問を解決してくれたのがメンタルヘルスだった。『依存症』あるいは『共依存』という概念で、そのメカニズムをわかりやすく説明してくれた。  それをきっかけに、私はメンタルヘルスにはまった。素人でも読みやすい本をいくつか手に取った。目からウロコがボロボロ落ちた。不思議で理不尽で、やるせなく、憤りを抑えるのが難しい人間関係のいくつかが、明快・明瞭に見えてきた。
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