揺れる車内

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僕が降りる手前のバス停で数人がバスを降りるようで、列を作る。 先頭にいたおばあさんがカードをかざすと、チャージ不足だったようだ。 おばあさんは、焦りながらカバンにカードをしまい、財布を探しているが、どうやら片手に持った傘が邪魔で、うまくカバンを探れないようだ。 太陽も、時にはこんな意地悪をする。 おばあさんがモタモタしていると、一番後ろに並んだスーツ姿の男が、舌打ちをした。 ふいに、車内が曇りだした。 すると、おばあさんの後ろにいた中学生の男子二人が、おばあさんの荷物を持ってあげて、支払いを手伝ってあげた。 車内の天気は、二人の太陽のおかげで、一気に回復していく。 彼らは、半分どころか、十分大人だ。 それにくらべ、空腹にバス代をごまかしていた中学生の自分の情けなさよ。 子供は、僕だな。 走る車窓から、男子学生達にマンハッタンを渡すおばあさんと、 バツが悪そうにいそいそと走り去るスーツ姿の男。 そうか、パンはああやってゲットするものなのか。 勉強になります。 先輩。 これからは、僕も子供の見本となる大人にならなきゃ。 そう思いつつ、実家に近いバス停に着くと、 僕は今更ながら一人400円のバス代に1000円を入れた。 「お客さん、多いですよ?」 あ、やっぱり呼び止めるんだ。 「えっと、二人分です」 そう言って僕は、後に続いて降りる妊婦の手をとる。 「それでも多いですよ?」 「いや……あの……」 あの日の悪事が言い出せず、言いよどんでしまった。 やっぱり僕は、子供のままだ。 困ってオロオロする僕を見て、すかさず妊婦が言った。 「いえ、三人分です」 半分、子供の僕と、立派な大人の彼女は、この退屈な街で家族になる。
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