1話 生活習慣

4/6
279人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「当たり前の事だけど、この絵先生のだよね……」 「へ? ああ……うん」  先生はキョトンとし俺を見て、その顔をキャンバスに向け、また俺に向け頷く。結んだ口元がほんのり持ち上がる。  もしかして、照れてるのか? 教師なのに? 「やっぱ、教師だけあってさすがだね」  俄かに優位に立てた俺は場繋ぎがてら言葉を発した。先生は頭を指先でポリポリ掻きながら「あ、そうだ」とおもむろに立ち上がった。 「あっ……」 「ちょっと待ってね?」  俺の返事も待たずに先生は部屋から出て行ってしまった。なんだろう。さっきは照れた先生をからかいがてら話しかけたけど、本当の所あまり長居する気なんてない。  三分くらいして先生が戻ってきた。手にはまたマグカップ。先生はコーヒーの入ったカップの横にそれを置いた。 「はい。青山くんのは牛乳と砂糖入れたよ。一緒に飲もうよ」 「え、あ……いや、……はあ……」  だから長居する気はないんだっつーの。そう思いながらもなんとなく俺の手は動き、カップを手に取っていた。  コーヒー牛乳……。  コーヒーとミルク(牛乳)を混ぜたものは、つまりはカフェオレだ。だけど、そこに砂糖が入って更に飲みやすくなったそれは俺の中ではコーヒー牛乳となっている。  子供扱いを感じる飲み物だ。まぁ、生徒だし、先生から見れば子供なんだろう。でも、砂糖なしでも俺は飲める。 「いただきます」 「うん」  先生はキャンバスの前の椅子に座り、絵を眺めながらコーヒーを飲んだ。背中が丸まっている。 「ふ~……」 「…………」  先生の丸まった姿勢を見ながら、黙ってコーヒー牛乳を啜った。 「……青山くんは絵を描くの楽しいかい?」  かい? のところでキャンバスから俺へと視線を向ける。なんなんだ。このタイミングは!  ああ、そうですとも。先生も重々ご存じのように苦手ですよ。悩みの種になりうる生徒でしょうとも。誰しも欠点の一つや二つくらいはあるもんでしょ? 現に俺は美術の分野以外では上位のいい評価をだしているんだから。それはそれでいいんではないでしょうか?  俺はまるでクレーマーの如く末尾のイントネーションを上げ気味に心の中で意見した。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!