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車で片道三十分弱掛かる道のりを経て、勤務先の駐車場に着き、運転席から降りた亜津は、まだ開店前だと言うのに車が多い事に驚いた。
トランクや後部座席から、段ボールや保冷ボックスを取り出す者達を見て、
「お客様特別招待会のイベントよぉ」
昨日の一二三の言葉を思い出し、驚きは直ぐ様消え去っていった。
「亜津ちゃーん、おはよー」
亜津の後から駐車場に入って来た黒の軽自動車の助手席から、一二三が元気良く手を振りながら降りて来た。
「あ、おはよー」
手を振り返し、一二三に駆け寄る。
「なんか、ワクワクしない?お祭りみたいね」
一二三は目を輝かせ、出店準備をする的屋達の姿を眺めた。
「一二三ちゃんの言ってた事忘れててさぁ、車の多さに一瞬何事かと思ったよ」
亜津がそう言うと、一二三はハハッと笑った。
「占い師の人、もう来てるのかなぁ?」
一二三はどうにも気になる様子で、辺りをキョロキョロと見回した。
「さぁ?占って貰うにしても、昼休みか仕事終わってからでしょ。ちゃんと仕事はしようねー」
「はいはい、解ってるって」
亜津に軽く諭され、一二三は又ハハッと笑いながら、手を軽く縦に振った。
二人はスロープを降り、バックヤードを通って、休憩室に入った。
「「おはよーございまーす」」
休憩室では、既に何人かのパートナーが着替えを済ませ、始業前の一服をしていた。
「おはよー」
「おはー」
珈琲を飲みながら、煙草を吸いながら、ゲームをしながら、仕事が始まる前のリラックスタイムをそれぞれ過ごしている。
亜津と一二三も更衣室で制服に着替え、休憩室の自販機で珈琲を買い、椅子に腰掛けた。
「ねぇ、占い師の人って、もう来たの?」
一二三が、他部門のパートナーに尋ねた。
「えー?まだ見てないよー」
「ふーん…」
期待していた返事と違ったせいか、一二三はつまらなそうに頬を膨らませた後、珈琲を口に含んだ。
ガチャッ
「さっ、こちらへ」
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