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休憩室のドアを開き、少しガラガラと乾いた声で誰かを案内しながら、店長が部屋に入ってきた。
「おぉ、皆早いな。あ、谷口さん、窓開けてぇな。煙いわ」
一二三が席を立ち、窓を開けに行こうとすると、
「違う違う。精肉の、谷口さんの方!!」
店長は窓際の席に座っていた精肉の谷口パートナーに言ったつもりだったらしいが、一二三の思いがけない行動に苦笑してツッコんだ。
「良いじゃん、どっちでもー」
一二三は今更席に戻るのも面倒臭くなり、立ったついでに窓を開けに行った。
「お待たせしてスミマセン。さ、どうぞ」
店長に誘導され、中に入ってきたのは…
「…わぁ…」
皆が無意識の内に息を呑む程美しい女だった。
女が歩を進めると、艶やかな長い黒髪が靡き、周囲に仄かな花の甘い香りが漂った。
切れ長で少し憂いを帯びた眼は、相手の心を見透かしてしまいそうだ。
「皆ー、注目っ!!て、もうしてるか!!」
美人を前にしてか、店長の機嫌も良いようだ。自分でツッコミ、ガハハッと笑った。
「こちら、占い師の如月春鳴(キサラギ シュンメイ)さんだ。今日一日、エスカレーター横の特設場所で、占いをしてもらう。占って欲しい人は、昼休みか、仕事終わりにしてもらってくれ。仕事中は駄目だぞー」
口元をにやつかせ、冗談を交えながら店長が発言した後、春鳴はクスリと笑い、皆に向かって軽く会釈した。
「はーい」
「解ってるって、店長」
「そんな言ってる店長がさぁ、意外と仕事中に抜けて占ってもらってたりして」
皆が個々に返事をする中、亜津だけは未だ春鳴に魅入っていた。
春鳴に、と言うより、春鳴の傍らに居る、頭に獣耳が生えた幼児に。
皆、見えていないの?
って事は、もしかしてあれは、私だけしか視えてないのか?
亜津の視線に気付いた春鳴は、暫し考えた後、店長にひそひそと耳打ちした。
店長はうん、うん、と頷き、
「唐島、ちょっと…」
亜津にこちらに来るよう手招きをした。
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