唐島亜津の苦悩

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唐島亜津(カラシマ アズ)は幼い頃から、人には見えない者や姿が視え、人には聞こえない声や音が聴こえていた。 それらは世間一般的に言うと「幽霊」と呼ばれるものだが、亜津にとっては普通に視界に入ってくるもの故、自分のその能力が特別だと思った事はなかった。 「あ、そう言えばさぁ、今度、占い師が来るよね、この店」 亜津の隣の作業台で人参の袋詰めをしながら、谷口一二三(タニグチ ヒフミ)が話し掛けて来た。 一二三は亜津と同じ青果部のパートナーで、年齢は親子程違うものの、亜津を気に入ってかやたらと話し掛けて来る。亜津が、自分の娘と歳が近いのもあるだろう。 「マジで?何でまた?」 「ほら、あれよ?お客様特別招待会のイベントよぉ。毎回似たようなイベント内容でお客さんも飽きて来てるのか、最近じゃあ特招会でも客数少ないでしょ?その占い師だけじゃなくて、屋上駐車場に出店並べたり、会場作ってライブみたいなのもするみたいよ」 「へぇー…でも、占い師って…」 一応「百貨店」と付く大型店舗のスーパーではあるが、こんな田舎の店に占い師を呼んだとこで、客寄せになるのだろうかと、亜津は疑問に思った。 どちらかと言うと、客層は年配者が多い。演歌歌手を呼ぶならまだ解るが… 「その占い師、すっごく当たるって有名らしいよ。私も占って貰うから、亜津ちゃんも見てもらいなさいよ」 「一二三ちゃん乗り気じゃん。どうせ宝くじ当たるかー?とかでしょ?私は…いいや」 亜津は苦笑した後、パック詰めを終えた生姜をコンテナに入れた。メモ用紙に産地と日付を書いてコンテナに貼り、キャリーに乗せて冷蔵室に直し込んだ。 「いいや、じゃないわよ。見て貰ったらさ、解るかもしれないじゃん」 亜津が冷蔵庫から出てきたのを確認し、一二三は話しを続けた。 「何が?」
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