唐島亜津の苦悩

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「亜津ちゃんの能力が、生まれつきなのか、何か切っ掛けがあって植え付いたものなのか」 考えた事もなかった。 物心がはっきりと付き始めた頃から当たり前のように人ならぬ者の姿を目にしてきたから、亜津にはその発想自体無かったし、悩みとして抱えた事も無かった。 ただ、母から御使いを頼まれ、姉の友理奈(ユリナ)と買い物を済ませて帰っていた時、道路脇に立っている顔が焼け爛れた男性を視て亜津が動けないでいると 「亜津、知らないふりよ、知らないふり。私達じゃ、何もしてやれない。他の人に言ったとこで、頭おかしい奴って思われるだけなんだから」 友理奈にも視えているとなると、遺伝的なものがあるのかと…。 そして、軽々しく他人に口にしてはいけない事だと…。それだけ理解して、この歳まで生きてきた。 「まぁ、その占い師が“本物”なら、亜津ちゃんの特異体質も見抜くだろうし…。私はね、旦那が言ってた、亜津ちゃんの後ろに憑いてる人に、何か関係があると思うんだけど。」 一二三の旦那も所謂視える人らしく、店内で一二三を迎えに来た旦那と会った時に、 「亜津ちゃんの守護さんは、中々姿を現してくれないね」 目を細めて言われた言葉は全くその通りで…。 亜津自身、何か不思議な力によって守られている事は自覚していた。 危険が及ぶ度に助けてくれる何者かを知りたくて、鏡越しに視てみようと何度も挑戦してみたが、その度に気配が消える。 醜く、恨み事しか言わない死者の姿ではなく、 自分を助けてくれる何者かを視てみたい… 「あ、時間だ。帰ろうか、亜津ちゃん」 一二三に促されて壁に掛かった時計を見てみると、時刻は十六時を過ぎていた。 掃除は予め済ませていた為、二人は作業場を後にし、事務所へ向かった。 「悠也君、帰るねー」
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