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伝票処理をしていた東郷悠也(トウゴウ ユウヤ)に向かって、一二三が声を掛けた。悠也は青果の部門長で、亜津達の上司だ。
「お疲れー」
パソコンから目を逸らし返事をする悠也に、亜津は軽く会釈をした。
人事異動で悠也がこの店にやってきて早三年。普通に会話はするようになったが、未だに悠也の整い過ぎた顔を直視出来ない。
亜津はタイムカードを打ち、一二三の後に続いて事務所から出た。
更衣室に入って着替え、隣接した休憩室で他部門のパートナー達と他愛もない会話をしながら、思い思いの時間を過ごす。
「じゃ、帰ります」
ある程度会話が落ち着いたところで、亜津が皆に別れを告げると、
「はーい。また明日ねー、亜津ちゃーん」
皆がハモって返事をしてきた。
「ところでさぁ、明日の占い師…」
去り際に聞こえてきた会話も、例の占い師の事だった。
やはり、皆も気になるのだろう。
悩み…か…
亜津の今の悩みは、霊感がある事ではない。
顔が潰れ、頭蓋骨が割れ、脳が飛び出し、身体が朽ちても、在らぬ方向に曲がった四肢を引き摺り、飛び降りを止めない女性や、
俯いて泣き続け、その場から離れず、自分が死んだ事を理解していない子供…
様々な死者の姿を幾度となく視て来た為、もう慣れに近い感覚だ。
それに、亜津の能力を知り、解ってくれている人も居る。
一二三と、一二三の旦那、中学からの親友の早乙女詩織(サオトメ シオリ)に、姉の友理奈。
亜津の特殊能力を知りながらも変わらず傍に居てくれる人々の存在は、非常に心強い。
そんな亜津の今の悩みは…
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