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最近頻繁に見る悪夢だ。
ひやりと冷たい風が吹く夜道を、亜津は一人歩いていた。
これが夢だと思うのは、第三者としてその様子を見ている自分が居るからだ。
ずっ…ずずっ…
何かを引き摺る鈍い音が、静まり返った空間に響く。
…ず…っ…ずずっ…ずずず…
やがて、ゆらゆらと動く影が、亜津の前に姿を現した。
ゆっくり…ゆっくり…、
ふらふらと…
「…さ…ない…。ゆ…さ…な…」
消え入りそうな声を発しながら、亜津に向かって近付いて来る。
暗闇に目が馴れ、辺りを識別出来るようになると、その者の姿も鮮明に捉えられた。
ボサボサの長い黒髪に隠れて顔は見えないが、四月のまだ冷える夜には不釣り合いなワンピースを身に纏い、覚束無い足取りで歩いている。
手には…。あれは、何だ…?
亜津は目を見開き、女が手にしている物を凝視した。
次の瞬間、どちらから間合いを詰めたのか分からないが、女の顔が亜津の眼前にあった。
髪の隙間から嗤った口元が見え、背筋にぞくりと寒気が走った。
胸元にするりと指を這わせられ身の危険を感じた亜津は、女の後ろ襟首を掴んで行動を制限させた。
女の体を自分から剥がし、地面に放り投げる。
「…くっ…くくくっ…ふっ…」
地面に手を付き、何が可笑しいのか肩を震わせ笑う女と、
先程の衝撃で女の手から離れた物体が、眼下に転んでいる。
女が手にしていたのは、人間だった。金色でツーブロックの髪に、赤いパーカー。今時の男子らしい格好だが、生死は判らない。
「ふっ…ふはっ…あ…あはっあははははっ…あはははは」
すくっと立ち上がり、奇声に近い笑い声を上げながら、女は走り去って行った。
女の姿が視界から消えたところで、亜津は地に横たわる人間に歩み寄った。
「おい、大丈夫か?」
亜津の口を借りて、低い男の声が相手に訊く。生死を確認する為、肩に手を添えて軽く揺すりながら…
「た…すけ…て…くれ…」
とてもか細く弱々しい声で、男は亜津の問い掛けに応答した。
亜津がほっと胸を撫で下ろしていると、急に腕を掴まれ
「くる…しい…」
痛い、苦しい、痛い、い"だっ"…い"だい"ぃっ"!!
男の感情が流れ込み、ノイズのように脳内で響き渡った。
「…うわわぁっ!!」
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