唐島亜津の苦悩

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自分の叫び声と共に、亜津は目を覚ました。 これは夢だ。悪い夢だ。 切れる息を落ち着かせようと深呼吸するが、心臓が激しく脈打ち、じっとりと嫌な汗が頬を伝う。 亜津は恐る恐る自分の手を確認した。 この夢を見た後には、必ずと言って良い程亜津の身に異変が生じているからだ。 「…またか」 右手に付着したどす黒く生臭い血… 諦め混じりの溜息が溢れる。 昨夜髪を乾かしてベッドサイドテーブルに置きっぱなしにしていたタオルを取り、手に付いている血を拭った。 ある程度拭いたところで、布団を捲る。 「…うわー」 毎度の如く、布団の足元付近は泥だらけだった。勿論、部屋の入り口からベッドまでのルートも、亜津の足の裏も… 「最っ悪っ!!」 どの道洗わなければならない敷き布団カバーの汚れていない部分で足を拭き、亜津はベッドから降りた。 敷き布団と掛け布団のカバーを外し、床の泥を避けながら部屋を出て、洗濯機へぶち込んだ。 洗剤を入れてスイッチを押した後、洗濯機脇のランドリーに掛けていた雑巾を流し台で湿らせ、バケツに水を汲み、また部屋に戻る。 午前四時、誰しもが普通ならまだ眠っている時間に、亜津の一日は掃除で始まる。今日で四度目だ。 一体、寝ている間に何をしているのか。 夢遊病を患い、外に出ているのか…。 それだけなら…良くはないか。 脳内で一人ツッコむ。 只の睡眠障害なら病院に行けば治療する術もあるだろうが、亜津にはもう一つ気に掛かる事があった。 一通り掃除を終わらせた亜津は、風呂場で悪夢と掃除のせいで掻いた汗と拭ききれていない汚れをシャワーを浴びて流し、脱衣場で着替えを済ませ、珈琲を淹れにキッチンへと向かった。 途中でリビングに寄り、リモコンでテレビの電源を付ける。 「お早う御座います。NMNニュース、最新のニュースをお伝えします」
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