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視聴者人気No.1の男性アナウンサーが、良く通る声でニュースを読み上げ始めた。
亜津は朝を飾るに相応しい清々しい声を耳で聞きながら、今日はどの種類の珈琲を飲もうかと、コーヒーメーカーのメニューボタンを見つめて暫し考えた。
よし、今日もブラックにしよう。
ブラックのボタンを押し、テレビ画面に注目した。後は放っておいても、機械が勝手に珈琲を淹れてくれる。
「今月16日に佐賀県神津市で見つかった遺体が、発見現場近くに住む20歳のアルバイト従業員、多部久俊さんだと判明しました。多部さんは近日発生している連続殺人事件の被害者と見られ、本日は特集を組んでお送りします。現場の武光さん」
映像はスタジオから変わり、
「はい、現場の武光です」
見知った風景が映し出された。
武光リポーターの背後に聳えるのは、亜津が夢で見たのと全く同じ景色だ。
熊戸神社へと続く坂道。
家から近い場所ではあるが、亜津は通勤時に下の道を車で通過するだけで、本殿へと向かうこの道には足を踏み入れた事がない。亜津の記憶が正しければ…だが。
この道を使うとしたら、坂の上に住む人間くらいだろう。
亜津が気になっているもう一つの事は、これだ。
もしかしたら、寝てる間にこの場所に行っていたのではないか…と。
テレビに映る神社周辺は、夜が明けきれていないのもあり、薄暗く、静かで、少し不気味だ。
「田園風景に囲まれた長閑な町、神津市逢地町。住宅街から少し離れた此処、熊戸神社脇で、男女の遺体が相次いで発見されるという事件が起き、住民達は不安な日々を過ごしている模様です」
リポーターが歩きながら話し上げると、予め撮っていたであろう住民達のインタビュー映像へ切り替わった。
「あぁ、あいつらが殺された事件ね。犯人、まだ判ってないんでしょ?」
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