唐島亜津の苦悩

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昨夜、夢で見た男が居ない。 夢と同様、生きているのか、それとも… それとも、この後現場クルーの者達が発見し、新たなニュースとして流れるのか… 無名であるとは言え、一ネット小説家として活動している亜津の頭の中で、不謹慎だとは解っていながらも、妄想が膨らんでしょうがない。 「はい。武光さん、有難う御座いました。次の犠牲者が出ないよう、一刻も早い犯人逮捕を願います。続きまして…」 中継からスタジオに戻ったところで、亜津は冷蔵庫の中から昨日ベーカリー部のパートナーから貰っていた菓子パンを取り出し、封を開けて食べ始めた。 国会議員の暴言問題や、芸能人の結婚報告等、亜津にとってはどうでも良い部類で、興味すら湧かない。 BGM宜しく、見ながら聞き流すだけだ。 朝食を軽く摂って珈琲を飲み干した後、薄く化粧を施し、家の鍵を締め、亜津は車に乗り込んだ。 エンジンを掛けると、ドン,ドン,ドン,と、洋楽の重低音が響く。 「さて…と…」 悪夢を見た以外は、又何時もと同じ一日が始まる。 青果の仕事をし、パートナー達と他愛ない話で笑い合うだけの、何気無い日常が… その筈だった。
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