愛逢月

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愛逢月(めであいづき)牽牛と織女互いに愛して逢うという月のことで、陰暦7月の異称。 『いつ会える?』 『うーん、まだわかんないなー』 『そっか。仕事頑張ってね』 『おう。じゃあまたな』 そう言って電話を切られる。 彼が単身赴任で海外に行ってしまってもう何ヶ月も経つ。ついて行きたいと言ったが断られてしまった。 なので最初はすぐ帰ってくると思っていたが、帰ってこなかった。日々を重ねるうちに色々心配になってくる。そして来月は私達の結婚記念日。彼は覚えていてくれてるのだろうか。 さらに日々は流れ7月7日、私達の結婚記念日である。今日は生憎の雨で織姫や彦星と一緒で私達も会えないのかな、などと考えていると家のベルがなった。 やってきたのは宅配便。送り主は彼。しかし入っていたのはどこに使うのかわからない鍵だけだった。 理由がわからず彼に電話してみたが、今日に限って繋がらなかった。 次の日、知らない番号から電話がかかってきた。 『貴女の旦那さんと思しき方が飛行機事故に遭い、お亡くなりになりました。出来る限り早く○○へ来て身元確認をお願いします』 その言葉が信じられず、一刻も早く嘘だと思いたくてその場所へと向かった。 けれどあんなイタズラ電話が私にかかってくるはずがなかった。何ヶ月ぶりに会った彼は、本当に彼なのか疑いたくなるほど無残な姿だった。 「なんで日本に向かう飛行機に乗っていたの……こんなサプライズ嬉しくないよ。ねぇ、なんか喋ってよ。ねぇ、ねぇ、ねぇ。お願いだから、返事してよ」 私はただただ、動くはずのない彼に呼びかけながら泣き続けた。 結局遺品はほぼ残らず、唯一残った鍵については色々な人に聞いたが正体はわからず、1年が過ぎた。 そして今、私はとあるビルの屋上へ来ている。 「今日は7月7日、私達の結婚記念日だね。それでね、7月は文月と言うけど愛逢月とも言うんだって。なんでも織姫と彦星にちなんでつけられた異称みたい。去年はあなたが会いに来てくれたでしょ。今年は私が会いに行くから。鍵のこととか、いっぱい話そうね」 満天の星空の元、彼女は飛び立つ。
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