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母はヨウスケの顔を見ながら、どこか遠くを眺めている。
どこか……七年前を。
ゆっくり、ゆっくり。噛んでも切れない餅を舌で転がすように、何度も同じ話を繰り返しながら語った内容は、おおよそこんなものだった。
ヨウスケが家を出たのは、11年前で、まだ18歳の時。
高校卒業と同時に就職し、たまたま東京が最初の赴任地となった。
東京という憧れの土地での仕事。慣れない新人の忙しさも手伝って、実家への連絡は疎遠になっていく。
当時は携帯電話も何も無かった。
あったにはあったが、都会の人が持つものという印象で、こんな小さな港町で持っている人の方が少なかったと思う。
ちなみに、両親は港町から出たことがない、出たくない性分で、一回も会いに来てくれたことはない。
今思えば、東京へ行くには電車を乗り継ぐしかないから、そういうことに疎い両親にとっては、息子が雲の上にでも家出した気分だったのかもしれない。
就職して4年目。初めての異動の内示が出たその年は、台風の当たり年だった。
大型の台風が何度も日本列島を縦断し、各地に被害が相次いだ。
テレビで連夜流れるそんなニュースを他人事のように見つめていたことを思い出す。
その中にこの小さな港町の惨劇も含まれていたことを、ヨウスケは知らなかった。
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