第1章 祭りの界隈

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一通り話し終えた母は、光の加減からか、目が落ちくぼみ、とても疲れた顔をしていた。今にも倒れそうにも見える。 もしかしたら、ヨウスケを出迎えた時からずっとこんな顔だったのかもしれない。 ようやく、ヨウスケは11年という年月が流れたのだと気がついた。 「なんで、帰ってこんかったんや」 母の口調は落ち着いてはいたものの、その中に非難と悲しみが含まれている。 面倒だと思った。 などと口にしようものなら、これから先の話に障りはしないだろうか。 こんな話を聞いてさえ、汚い計算をする自分に心の底から反吐が出た。 喉がからからに渇いていることに気がついて、一気にお茶を流し込む。 茶葉の渋みとほんのりした甘みが口の中に広がった。 首を傾げる。馴染みのない甘いお茶だ。 「もうひとつ、言わな」 ヨウスケは嫌な予感がした。 このタイミングで面白おかしい話をするはずもない。 「再婚するわ」 何を言っているんだろうと思った。 冗談だとしたらタチが悪すぎるし、本当だとしても、それは。 第一早すぎないだろうか。そもそも再婚ってできるのか。法律的に。 ちょっと待てよ、再婚ということは、新しい父親ということだよな。この歳になって父親がどうとかないんだけども。 いつ知り合ったのか。仕事は何をしているのか。年齢は、名前は。 え、オレの苗字はどうなる。戸籍はどうなってる。というか父の相続とか全然何も知らされてねーし。 時間にして3秒くらいだっただろうが、色んなことが頭を駆け巡る。
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