4人が本棚に入れています
本棚に追加
一通り話し終えた母は、光の加減からか、目が落ちくぼみ、とても疲れた顔をしていた。今にも倒れそうにも見える。
もしかしたら、ヨウスケを出迎えた時からずっとこんな顔だったのかもしれない。
ようやく、ヨウスケは11年という年月が流れたのだと気がついた。
「なんで、帰ってこんかったんや」
母の口調は落ち着いてはいたものの、その中に非難と悲しみが含まれている。
面倒だと思った。
などと口にしようものなら、これから先の話に障りはしないだろうか。
こんな話を聞いてさえ、汚い計算をする自分に心の底から反吐が出た。
喉がからからに渇いていることに気がついて、一気にお茶を流し込む。
茶葉の渋みとほんのりした甘みが口の中に広がった。
首を傾げる。馴染みのない甘いお茶だ。
「もうひとつ、言わな」
ヨウスケは嫌な予感がした。
このタイミングで面白おかしい話をするはずもない。
「再婚するわ」
何を言っているんだろうと思った。
冗談だとしたらタチが悪すぎるし、本当だとしても、それは。
第一早すぎないだろうか。そもそも再婚ってできるのか。法律的に。
ちょっと待てよ、再婚ということは、新しい父親ということだよな。この歳になって父親がどうとかないんだけども。
いつ知り合ったのか。仕事は何をしているのか。年齢は、名前は。
え、オレの苗字はどうなる。戸籍はどうなってる。というか父の相続とか全然何も知らされてねーし。
時間にして3秒くらいだっただろうが、色んなことが頭を駆け巡る。
最初のコメントを投稿しよう!