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口ではそう言いながらも、彼の手はあっさり砂絢から離れていった。
本当に、食えない男。
捕まえたと思っていても、簡単に腕の中から抜け出していってしまう。
砂絢は簡単に身支度を済ませると、同じく着替えが済んだらしい彼に声をかけた。
「今夜は……?」
どうするの。
会長の目が宙をさまよう。
「夜は、用事がある。また、頼むよ」
会長は少し頷くと、砂絢に向かって微笑んだ。
笑うと頬の丸みに沿って皺ができ、眉尻も下がって目尻も細くなる。見ているだけで、つられて笑ってしまいそうになる。
この笑顔で、一体どれだけの人間が人生を狂わされたことか。
過去の遍歴を知っている砂絢は、魔力を振りまく笑顔を産業廃棄物でも見るような目で見つめた。
「わかりました。また、お待ちしております」
「うん」
チェックアウトする時、ホテルを出る時、タクシーで帰る時。
砂絢の目を1度だって見なかった。
流れる風に揺れるのは、長く煌めく向日葵色の髪。
今日もまた、ホステス嬢としての1日が始まる。
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