第2章 路地裏の猫

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口ではそう言いながらも、彼の手はあっさり砂絢から離れていった。 本当に、食えない男。 捕まえたと思っていても、簡単に腕の中から抜け出していってしまう。 砂絢は簡単に身支度を済ませると、同じく着替えが済んだらしい彼に声をかけた。 「今夜は……?」 どうするの。 会長の目が宙をさまよう。 「夜は、用事がある。また、頼むよ」 会長は少し頷くと、砂絢に向かって微笑んだ。 笑うと頬の丸みに沿って皺ができ、眉尻も下がって目尻も細くなる。見ているだけで、つられて笑ってしまいそうになる。 この笑顔で、一体どれだけの人間が人生を狂わされたことか。 過去の遍歴を知っている砂絢は、魔力を振りまく笑顔を産業廃棄物でも見るような目で見つめた。 「わかりました。また、お待ちしております」 「うん」 チェックアウトする時、ホテルを出る時、タクシーで帰る時。 砂絢の目を1度だって見なかった。 流れる風に揺れるのは、長く煌めく向日葵色の髪。 今日もまた、ホステス嬢としての1日が始まる。
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