プロローグ 宵の明星

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ふと、目が覚めると私はそれを探していた。 まだ空は赤い。 空に浮かんでいる緋色の玉は、何の感情も放たず、ただ私の所作を見つめているだけである。 意地の悪い眼だ。私に感情を隠しながら、その向こう側で私に対する悪評を言っているに違いない。 私は、何の罪もない自然の産物を心の中で嘲けり、笑った。 鼻から息が漏れ、しゅっしゅっ、と音が響く。 汽笛のように何度か息を吹き出したとき、私はようやく目的の駅にたどり着いた。すなわち、探し物を見つけたのである。 それは、こちらを見つめている火の玉より少し離れた場所にあった。 薄藍色の天井に一つ穴が開いて、光が漏れ出ている。朝と夕方のわずかな時間だけ見える、その消え入りそうな一点の光に、私の胸はぎゅっと締めつけられた。 どうしても、言わなければいけないことがある。 彼に、伝えなければいけないことがある。 それを思えば思うほど、私の胸はよりいっそう締めつけられる。 今日こそは。今日こそは言うのだ。 こんな日が毎日続いている。
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