第2章 路地裏の猫

5/11
前へ
/27ページ
次へ
「ま、今日のところはこのくらいに致しましょうか。 お乗りなさい。送りますよ」 「……ていうか、もう乗ってるからはやく出してって!」 砂絢はふるふると震えた。 これだ、これ。 ドエスに天然も入って、この人の言動行動は予測不可能なのだ。 お前は今どこを見て、話していたんだ。 声には出さなかったが、じとっとした視線を送ると、なんとなく伝わったらしい。 くっくっと体を折り曲げて笑っている。 「冗談ですよ。行きますか」 「安全運転でおねがいします」 「さあ、どうでしょうね」 何気に怖いことをさらっと言うと、右へハザードランプを出して、車道へと走り出した。 振り返れば、山の上にひっそりとたたずむラブホテルの錆びれた看板が見える。 この仕事を始めて3年になるけれど、毎回思うことがある。 なぜ、私なのだろう。 ホテルの看板が遠ざかるのを見る度に、砂絢の心の中は虚ろになっていく。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加