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ヨウスケが到着した時には、既に獅子舞が始まっていた。
最近は家族連れの観光客も多く、若いカップルも目立つ。
そんな中一人で歩いているのもなんだか面白くないので、脇道に逸れることにした。
誰もが足を止めるその風景を足早に通り過ぎ、家と家の隙間にある細い道を進んでいく。
皆祭りを見に出ているのか、誰ともすれ違わない。
緩やかなカーブに沿って歩いていくと、家と家の切れ間に、タイヤが半分だけ地面から突き出ているだけの小さな公園があった。遊具はおろか、水飲み場も生い茂る木々もない。
しかしその公園を見た途端、記憶の奥底から白くモヤモヤした綿毛のような映像がぽこぽこと浮かび上がってきた。
ラジオ体操をしている、話したことのない近所のおじいさん。
タバコに見えるお菓子をふかすふりをして屯っている友人達。
翻るさらさらの長い黒髪と今も忘れない頬のヒリヒリした痛み。
……最後のは、余計か。
東京の公園のように、ジャングルジムやブランコや滑り台や、そういった子供が喜ぶアトラクションが充実していたわけではないけれど、このタイヤを飛び越すのに夢中になった頃があった。
らしくねーな。
そう思いながらも、久しぶりだからかつい頬が緩んでしまう。
ヨウスケはペロリと唇を舐めると、ふと思い立って、タイヤに跨ってみた。思いのほか低くて、腰を入れると勢い余って尻をぶつけた。
痛い。
なんだかよく分からないけど、おかしくて喉から笑い声が出た。
何をしたかったのかよく分からないまま、立ち上がる。再びゆっくりと歩き出した。
遠くの笛と太鼓の音から離れ、もう一度角を曲がると、さらに細い通りに出る。
まず車は通れないだろう。軽四でも厳しいんじゃないか。
そんなことを思いながら、足が動くに任せて通りを見渡す。
錆びた赤茶色の道路にコンクリート塀が連なり、顔を動かさなくても磯の香りと、生臭い魚独特の鼻につくにおいがすっと入ってくる。
帰ってきた。故郷へ。
その思いは、銛を看板がわりに突き刺した、錆だらけの家が見えてくるにつれて一段と強くなった。
家を出てから、もう十一年になる。
ヨウスケは、無意識にゴクリと唾を飲みこむと、引き戸に指をかけた。
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