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大きな音がした。建付けが悪いらしい。
玄関は暗く、奥に見える台所にも明かりは見えない。
こんなに暗い家だったか。
ヨウスケが首を傾げた時だった。
暗闇の中から銀色がチラリと見え、咄嗟に首を引っこめると、ちょうど頭があったあたりを何かが通過した。
お玉だ。料理とかに使うやつ。
玄関横に植わっている椿に引っかかり動きを止めたが、引っかかり方が中途半端なせいで、先の丸い部分が不安定に揺れている。
顔を上げると、そこには中年の女性が立っていた。驚いているような懐かしんでいるような表情を顔ににじませながら。
「……母さん」
か細い声だった。そんな声しか出なかった。
しかし、声を聞いたとたんピクリと肩を震わせ、息子をまじまじと見つめた。
口をかすかに開けて、何か言いたそうにしているが、言葉にならないのだろう。空気しか漏れてこない。
たまらずヨウスケは、のりで塞がったような唇を無理やりこじ開けた。
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