第1章 祭りの界隈

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靴を脱ぐと、短い廊下を抜け、奥の台所と一体になった居間へと向かう。 昔から、帰ってきたら居間で今日の出来事を報告するという決まりがあった。 体に染みついた習慣は、何年経っても抜けないらしい。 そうして何の気なしに戸を開けたヨウスケは、“それ” を見つけてしまった。 四角の縁の中に収まった父の笑顔を。 台所の右横、昔は大きな葉をしげらせた観葉植物が我が物顔で太陽を独占していたその場所に、茶黒い仏壇があぐらをかいて座っていた。 天井まで伸びる木製の扉が少し開き、その隙間からなんとも穏やかなお顔が覗いている。 写真の中の父はヨウスケより視線を少し上を向けて微笑んでいた。 それは、記憶にあるより少しシワが増えていたけれど、明るい笑顔だった。
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