ふたつの道

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 春の日溜まりのような人だった    あるいは日溜まりに咲く菜の花のような  ふわりと微笑むだけで、周りの空気は嬉しそうに色付く  風に揺れる髪と春の陽光と蒼天の心地よいコントラストは中世の絵画のそれだ  抜けるように白い肌は、微かに朱が差していて艶やかだ  どこをとっても、自分には釣り合わない日向の君  毎朝鏡で見る自分は、あまりに平凡でつまらない  名前など呼んでもらえず、一纏めに雑草と呼ばれるに相応しい  大木の足元や、じめじめした物陰にじっと佇む自分  青天の霹靂だった  形のよい、紅を差していないのに赤い唇が紡いだ言葉  戸惑う自分を、苦笑しながら抱く君  触れあう身体は余りに儚げで、ガラス細工のように壊れやすい  夢のような日々が続いた  モノトーンの日常はパステルカラーに色付き、取り巻く空気は心地よい  自分の存在理由の全てをさらっていった君の笑顔    終わりは、唐突だった  重さ約160グラム。技術の粋を集めた薄い電子機器の表示する文字は、冷たかった  無料通話アプリは、タイムラグなしにその機能を発揮する  綴られた言葉は一言  だからこそ、甘い日々の終わりを如実に伝えていた  再び、名も無き雑草に戻る自分  一度触れたはずの日向は遥か彼方だ  目の前に咲き乱れる菜の花を、踏みにじりたくなったのは錯覚か  
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