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第二話 桐の花が見頃だった
(紫式部様、あなたの『源氏物語』を元に、
異聞を描かせて頂いております、大和撫子と
申す者です。
描かせて頂くにあたり、高校の時に習った
『源氏物語』を、再度勉強し直しております。
本日はご挨拶に参りました)
私は静かに手を合わせ、心の中で話しかける。
風が、優しく頬と髪を撫でていく…。
『…よくいらっしゃいました。
桐の花が見頃ですよ…』
優しい風と共に、
不意に穏やかで澄んだ女性の声が響いてくる。
耳元に囁きかける、と言うより
脳内に直接響いてくる、と言う表現が適当だ。
桐の花…そう言えば、地下鉄を走る電車が
地上に出た際、桐の木に灰色がかった薄紫の花が
咲いていたな…。
と、その光景を思い浮かべる。
そうそう、桐の花と言えば余談だが、
「末摘花異聞」のヒロイン、紅羽の瞳の色。
『煙るような紫色の瞳』
光の加減によって、紫色にも、
月光を湛えたようなグレーにも見える。
神秘的な灰色がかった紫色の瞳…。
これは「桐の花」の色からイメージを膨らませ、
かつ、
敬愛してやまないモンゴメリーの作品シリーズ。
そこに登場するヒロインから頂いたものである。
(桐の花。桐壷の更衣。源氏の君の産みの母君
のイメージ花でしょうか?)
私は心の中で紫式部に問いかける。
『…そうね。木は大きくて立派だけれど、
花は桜のように1つ1つが束になって咲くのに、
どこか寂しげでひっそりとしているでしょう?』
彼女は、まるで童謡を歌うかのように
私の頭に直接話しかけてくる。
(…あっ…)
私はそれを聴いて、桐壷の更衣が
何故桐をイメージ花にしたのか解った気がした。
立派な桐の木。即ち帝だ。
彼にしっかりと守られている。にも関わらず
寂しげにひっそりと、慎ましやかに咲く
寂しげな花。別名「雨降り花」とも呼ばれる。
確かに、雨がよく似合う。
まるで霧雨の中に、傘も差さずに物思いに耽る
儚げな美女を思わせるのだ。
彼女は宮中の女達の凄まじい嫉妬に
耐えきれる程逞しい筈も無く。
源氏の君を生んで程なくして亡くなってしまう。
寂しい生き方だったように思う。
彼女自身の意思はどんなものだったのだろう?
『…藤の花も、一足先に見頃を迎えましたね』
彼女は穏やかに話しかける。
藤の花。藤壺の宮、源氏の君が生涯憧れ、
求め続けた女性だ。
藤の花は深い紫色から淡い紫、そして白、と
見事なグラデーションを誇る豪華な花だ。
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